ソノアイダ#新有楽町では、4月23日(土)より5月1日(日)まで第3期レジデンスプログラムの制作発表展示を行います。
株式会社アトムがA-TOM ART ACTION*の一環として取り組み主催運営する「ソノ アイダ#新有楽町」は三菱地所の新有楽町ビル1階の空き店舗を空間メディアとして活用する2021年12月から始まるアートプロジェクトです。その中の企画「ARTISTS STUDIO」の第3期アーティストとして迎えたのはやんツーと水戸部七絵。
アーティストが自分の制作環境を移設し、約1ヶ月半の期間作品を制作しながらアーティストの営みを展示、その制作発表、展示販売の場となります。
*A-TOM ART ACTION(アトムアートアクション):アートの力で不動産に新たな価値転換を図り、都市の活性化に挑戦する活動
■Exhibition
Y.N.W.P. – How to turn capital into garbage –
会期:2022年3月16日(水)-4月24日(日)
時間:13:00-20:00
Can we turn capital into garbage?
会期:2022年4月23日(土)- 5月1日(日)
時間:13:00-20:00
展示作家:やんツー 、 水戸部 七絵
会場:ソノ アイダ #新有楽町
住所:東京都千代田区有楽町 1-12-1 新有楽町ビル1階 北側112区画
主催:株式会社アトム(A-TOM Co., LTD.)
企画:ソノ アイダ実行委員会
協力:三菱地所株式会社
機材協力:BLACK+DECKER / DEWALT / LENOX / IRWIN
撮影:竹久直樹
■Event Information
トークショー「畠中実に聞く、資本主義と例外芸術」
2022年4月23日(土)18:00-
出演者:畠中実(ICC 主任学芸員)、やんツー(美術家)、水戸部 七絵 (画家)
■Artist Profile
やんツー
1984年、神奈川県生まれ。美術家。先端テクノロジーが持ちうる公共性を考察し、それらがどのような政治性を持ち、社会にどう作用するのか、又は人間そのものとどのような関係にあるかを「介入」する行為をもって作品を構築し、批評する。国内外の美術館やギャラリーで作品を発表する他、和田ながら演出による演劇作品の舞台美術や、contact Gonzoとのパフォーマンス作品など、コラボレーションも多く手掛けている。
http://yang02.com/
水戸部七絵 Nanae Mitobe
神奈川県生まれ。画家。
2011年名古屋造形大学にて、画家 長谷川繁に師事し、2021年から東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画 在籍、画家 小林正人に師事する。主に絵画原理を研究し、新表現主義や過剰主義の文脈から、一貫して油絵具を使用しながら、絵画を制作している。
以前から描く対象として象徴的な人物の存在を描いたが、2014年のアメリカでの滞在制作をきっかけに匿名の顔を描いた「DEPTH」シリーズを発表。2016年に愛知県美術館での個展「APMoA, ARCH vol.18 DEPTH ‒ Dynamite Pigment -」を開催し、2020年に愛知県美術館に「I am a yellow」が収蔵される。同年「VOCA展2021」奨励賞を受賞(東京都現代美術館学芸員:鎮西芳美 推薦)。代表作にマイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイなどの著名人やポップ・アイコンをモチーフにした「スター・シリーズ」、コロナ禍での時事的な状況を絵日記として描き続けているシリーズ「Picture Diary」等がある。
https://nanaemitobe.com/
丹原健翔
キュレーター、作家。ハーバード大学美術史卒業後、帰国し展覧会企画やアーティストマネジメントに携わる。アートスペース新大久保UGO立ち上げ。主な展覧会に、森山大道展(19年、kudan house)、未来と芸術展(19年、森美術館、作家として)、ENCOUNTERS(20年、ANB Tokyo)、Dream Play Sequence (21年、富山県美術館内レストラン「BiBiBi&JURURi」)など。
■Statement
『Y.N.W.P. – How to turn capital into garbage -』
”都市コンテンツはこれまでマーケティング型大衆消費とグローバリゼーションによる均質化が繰り返され、経済合理性という重力から抜け出すことができなかった。本企画は、アーティスト、主宰者、地権者がそれぞれに新しい価値観を持ち寄り「空き物件の活用」を超える複合的な企画が実現した。”
とプロジェクト発起人である藤元氏がステートメントで述べている。アーティストは「新しい価値観」をここでは持ち寄り、提示する必要があるようだ。だが、「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像するほうが容易い」というよく知られた言葉があるように、経済合理性の重力から抜け出すのは至難の業である。そこで、ソノアイダ第3期 やんツー×水戸部七絵『Y.N.W.P (Yang02 × Nanae Work in Progress / Public)』では「How to turn capital into garbage(いかに資本をゴミに変えるか)」というテーマを掲げ公開制作を試みる。有益なもの(資本)から無用の長物(ゴミ)を生み出すという心構えは「現代美術はゴミ/詐欺」とアートワールドの外からよく聞こえてくる揶揄を、字義通りそのまま受け止め肯定するような態度にもみえる。しかしそれは、資本主義の引力から開放されうる、新しい価値観や考え方として機能するかもしれない。合理主義を唯一の価値と錯覚し、思考停止した脳を解きほぐすための呪文として。あるいは、利潤を求めて市場を徘徊する、形式主義的絵画ゾンビのための特効薬として。
震災の時もコロナ禍でも、アーティストには何ができるのかと災禍の度に自問するわけだが、2020年3月、ドイツの文化大臣モニカ・グリュッタースは「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と断言した。それは「Your Necessity While Pandemic」と、遠く離れた国に住む私たちや、芸術の存在そのものに対する励ましのメッセージのように聞こえた。そして現在、東欧の国が戦争という新たな災禍に見舞われているが、ロシアのテニスプレイヤーがカメラのレンズに書いたメッセージに、私たちも「Yes, No War Please」と強く同意する。作品をつくる営みが資本を生み出し誰かの所有欲を満たすという目的を越え、危機的な状況でこそ必要とされる、普遍的な営みであることを信じ、それを示したい。
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『Can we turn capital into garbage?』
22年3月中旬から続く、作家のやんツーと水戸部七絵によるARTIST’ STUDIO第三期レジデンスでは、一貫して現代の社会情勢の中で露わになったアーティストという立場の役割や意義との向き合い方がテーマになっていたと言える。世界的な災いが重なり合うように社会に大きな影響を与えた歴史的にも稀有な時期に、「How to turn capital into garbage(いかに資本をゴミに変えるか)」というテーマを掲げた本レジデンスは、美術の資本性を逆説的に問うことで、現代美術の社会的意義に向き合うことが一つの狙いであった。結果として、コンセプト・メイキングの段階から現代美術を語る上で避けられない資本としての性質に歯向かった本テーマは、同時に、昨今の情勢の中での表現活動の市場価値と社会価値の乖離や、作家業を生業にするアティチュードをも内包するものであったことは留意しておきたい。
一方で、様々なコンセプトがレジデンス中に(油絵の具のように)重ねられていく空間の多層性は、それらさえも一つの資本主義の在り方であるという理解のレイヤーを露見させる装置にもなるのであった。デュシャンが100年以上前にどんなものも(ひいてはゴミさえも)美術になりうることを示し、フルクサスやポップアートを始めとする60年代からの米国の前衛芸術によりアートの公共性も度々美術史の物語に吸収され、いつしか「美術」がゴミにとどまらずあらゆるモノに資本性を付与させる力をもつようになったことも今の我々にとっては至極当然な命題でもある。現に、公開制作というパブリックに向けた本レジデンスの所作そのものが一つのパフォーマティブな「作品」として成立し、それさえも「社会彫刻」を提言したかのヨセフ・ボイスのデビュー作「How to Explain Pictures to a Dead Hare」(1965)を踏襲しているとも言える。
この美術のバッドトリップのような話は、やんツーと水戸部七絵が本レジデンスでこのテーマを扱う覚悟の重さをも意味している。本レジデンスの成果展に位置する本展「Can we turn capital into garbage?(資本をゴミに変えることはできるのか?)」は、二人の異なる媒体やコンセプトを扱う作家が同時にこの普遍性をもつテーマと向き合った末の一つのアンサーとして、観客に問いの矛先を向ける。未来永劫転売や金銭の伴う交換を一切禁止した新作たちしか販売をしない本展は、作品と資本を交換しながら生きる現代作家として、出口のない資本性の輪廻からの解脱を試みた行為として昇華されるのではないだろうか。
そして、その行為さえも美術ではないか、と考えてしまった時点で、観客は安全地帯からその輪廻を共有する立場になってしまっていることが、本展の最大の意義なのではないだろうかと考える。
丹原健翔