当社は若手アーティストの育成を図るとともに、文化を通じた都市・地域活性を目指し、芸術を学ぶ全国の学生から作品を募集するA-TOM ART AWARDを開催しています。本アワードの副賞として、2023年にTOYAMA賞とエプソンプロジェクションアワードを受賞した3名の若手作家が富山県滑川市の登録有形文化財・田中小学校旧本館にて滞在制作および成果展を開催いたしました。
約3週間の滞在制作では、普段の生活から離れ非日常の中の日常を暮らし、自分自身と向き合う時間を。富山県の伝統工芸や文化、素材、技法等を学び、今までにない挑戦を。三者三様、多くの経験をしてきました。滞在制作を通して生まれた作品たちは、会場である田中小学校旧本館に溶け込むように展示されました。
滞在制作期間から成果展まで、富山県内の方を中心に多くの皆様にご来場いただきました。1ヶ月間という短期間ではありますが、地元の方々が立ち寄る場所ができたこと、日々の生活にアーティストやアートが加わるという変化は、小さな渦を起こし流れを変える可能性を秘めています。
作家たちにとっても、鑑賞者にとっても新しい気づきのある、そんな時間であったことを願っています。
■アーカイブ・インタビュー映像
■スケジュール
滞在制作:2024年8月1日(木)~8月23日(金)
成 果 展:2024年8月24日(土)~9月1日(日)
■会場:田中小学校旧本館 富山県滑川市加島町230番地1
■参加アーティスト
⽯井佑宇⾺/ 金沢美術工芸大学 大学院美術工芸研究科 工芸専攻 染織コース
中澤瑞季 / 彫刻家(受賞時 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程 彫刻研究領域)
上條信志 / 東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻在籍
■主催:株式会社アトム
■協力:株式会社TOYAMATO、エプソン販売株式会社、プラムバウム、株式会社松井機業、株式会社FP不動産センター
■後援:滑川市
A-TOM ART AWARD
HP https://a-tomartaward.jp/
Instagram https://www.instagram.com/atomartaward/
石井佑宇馬 @ishiiyuma_
《満ちて在る海》
染色 / しけ絹、酸性染料
豊かに満ちて存在している海。そこから得た着想から、今回一枚の布を染めた。制作のきっかけは滑川の海にある。波打ち際のコンクリート護岸に腰掛け、日がな一日海を眺めた。地球の約七割は海に覆われていると聞いたことがあったが、広大な海を前にした時改めて、この世界を満たしている水の総量、その圧倒的な豊かさを肌に感じた。
本作品には、友禅の糸目糊防染技法による紋様表現と、水の作用による偶発的な色彩表現という、二つの表現手法を取り入れた。前者は、染料の動きを人為的にコントロールし、意図された緻密な表現を生み出す。後者は、一度染まった染料が水の影響によって自在に動き出し、偶然によるおおらかで有機的な景色が生まれてくる。
中澤瑞季 @nakazawa_mizuki
《水平の向こう側》
彫刻 / 松、布、写真
《隠れ場所》
彫刻 / 樟、布、人工毛
《繋がって、離れて》
彫刻 / 樟、布、人工毛
田中小学校旧本館には自転車で通うことが多い。滑川の街並みの中を走っていると、建築物が意識する垂直と垂直の伱間をつなぐように大きな水平線が見え隠れしながら広がっていく。また海の反対側には水平線よりも高く、隠れる頻度がより少なく、明度を変えながら塗りつぶされたような山並みが見え隠れする。どちらも見える限りの景色の向こう側を想像することは途方もない。
遠くの景色から視線を離してより手前の情景を見ると、結構な頻度で現れる空き地らしき場所の緑に惹きつけられる。“抜け” とも言えるその場所が充実した空間に満たされているようで、草木とその上の余白に目が向かう。展示しているこれらの作品の制作過程は普段と比べて大きく離れたものではない。木を切って、組み上げて、形を彫って、表面に布や写真を貼り付けている。しかし普段の拠点から離れてこうも作品が変わるのかと自分では驚いた。滑川で感じた抜けの空間の充実感が、作品に現れていて欲しい。
上條信志 @shinjikamijo
《凪の間》
映像インスタレーション / 木、和紙、布、インクジェットプリント、アクリル、マルチプロジェクション(フル HD、カラー)
昨年の暮れ、祖父が亡くなったことをきっかけに、死や老いについて考える時間が増えた。
祖父母の家に残された数々の遺品の中で、特に気になったのは、屏風を作るための「木枠」と「和紙」だった。木枠は、さまざまな現実を見通すための小さな窓のように思えた。また、和紙には、色や質感の異なる紙を繋ぎ合わせて一枚の料紙に仕上げる「継ぎ紙」という技法がある。私はこれらのモチーフや技法を用いて、多面的かつ複層的なインスタレーションを展開した。その中に、眠りや他者の視線を象徴する映像を投影し、多様な死生観や物事との距離感を映し出している。