プロ野球選手の新しい地元貢献の形を

パ・リーグ新人王を獲得した2014年に続き、2015年も2年連続となる二桁勝利を挙げた石川歩。育成選手から不動のクローザーとしての地位を築き、こちらも2年連続となる30セーブをマークした西野勇士。今や名実共に千葉ロッテマリーンズの中心投手となった両選手はシーズンオフも、故郷・富山で野球教室やトークショーを行うなど精力的に活動している。共に富山で生まれ育った両選手の故郷への思い、そして今後の活動について、富山出身のアトム創業者、青井忠治を祖父に持つ現アトム代表、青井茂が聞きました。

(野球は)上手くなるのが一番楽しい

Shigeru Aoi:石川さんとは昨年オフにも対談させていただきましたが、今年は同じチームのストッパーにも来ていただき(笑)、大変嬉しく思っています。今日は野球教室にトークショーとお忙しい中、ありがとうございます。
Ayumu Ishikawa, Yuji Nishino:よろしくお願いします。
Shigeru:早速ですが、去年に続いて今年も「富山ベースボールプロジェクト」と題して野球教室を開催されました。子供たちには、どんなことを教えるのですか?
Ayumu:僕はピッチングですね。
Yuji:僕は遊ばせてました(笑)。
Shigeru:(笑)。子供たちに向けてのメッセージとか、何かあるんですか?「大きく育てよ」とか。
Ayumu:上手くなって欲しいと思うので、結構技術的な指導もするんですが、まあ一回だけではなかなか難しいですよね。まずは「プロ野球選手に教えてもらう」ということが大きいのかな、と。
Yuji:小学生に教えるのは一番難しいですね。
Ayumu:もちろん楽しんでやるのが一番なんですが、上手くなるのが一番楽しいんですよね。
Yuji:上手くなくて楽しいと思えるスポーツって、あんまりないと思います。でも、まずは楽しむのが大事かな。
Shigeru:去年野球教室に来ていて、今年も来てくれた子とかいましたか?
Ayumu:いましたよ。去年は3人しかいなかったチームがいて、今年は7〜8人に増えてて「おお」みたいな(笑)。

練習メニューもほとんど全部、自分で考えてやっていた

Shigeru:僕は祖父が富山出身で、自分がビジネスマンとして富山に対して何ができるのか、考え続けています。その中で、お二人のトークショーに協賛させていただくなどしていますが、今後は単発の協賛にとどまらない、より継続的にできる何かに取り組んでいきたいな、と。お二人から「こんなことがやりたい」というアイデアがあれば、ぜひ伺いたいと思っています。
Ayumu:野球教室はこれからもずっと続けていきたいですね。できれば野手の人も呼んだりして、もっと規模も大きくして。
Yuji:ずっと野球だけやってきた人生なので、野球しか教えられることはないんですよ、本当に。今日は小学生の野球教室でしたが、強いて言うなら今後、もっと高いレベルの指導もできればと思っています。プロアマ協定もあるので高校生は難しくても、その手前の中学生くらいで、本気でプロを目指してるような子たちとか。
Shigeru:石川さんは「富山へ」というFacebookページも運営して、ファンの方々に向けて情報発信をされていますよね。
Ayumu:はい。野球教室やイベントなど、僕等が富山で取り組んでいることをより多くの人に知ってもらいたいな、と。今年のシーズン中はあまり更新できなかったんですが、来年は一登板につき一回くらいは写真をアップしたりしたいですね。
Yuji:僕は野球をやっている子供たちに、もっと夢を追いかけて欲しいと思っています。僕の高校時代、県大会の決勝まで勝ち上がるくらいの強いチームだったんですが、その後みんなすぐに野球をやめていくのが寂しかったんですよね。僕は同級生たちに、もっとみんな野球を続けて欲しかった。せっかくやるんだったら、もっと限界と思えるくらいのところまで粘って欲しい。そのために、不安なものを取り除いてあげられると良いですね。
Ayumu:富山では、大学で野球をやるというハードルが高い気がします。東京六大学などのイメージが強くて、大学野球は「上手くないとやっちゃダメ」「プロに行けなかった人たちが行く場所」みたいな。でも実際は全然そんなことなくて、僕が行った愛知の大学では高校時代に補欠だった人もいたし、それでレギュラーを取った人もいた。
Yuji:高校野球のチームって、ずっとみんなでやってきた仲じゃないですか。なのに僕がプロに入ったとき、みんながいないというのは寂しかったんですよ。
Shigeru:お二人にはアマチュア時代、恩師のような方はいたんですか?
Yuji:僕は正直、あまりいい指導者と縁があったという感覚はなくて。自分で考えて自己流で練習してきました。誰かにやらされるんじゃなくて、自分で考えてやってきましたね。
Ayumu:僕も自由な環境で、楽しくやっていました。
Yuji:僕らは多分、かなりゆるい方だっだと思います(笑)。
Ayumu:ある程度自分で考えてやっていたので、それは強みだと思います。強豪校で縛られた環境でやっていたら、大学とか自主トレがメインの場所に移ると「何をやればいいかわからない」という人もいるんですよね。
Yuji:僕の高校はピッチャーのコーチをしてくれる人がひとりもいなかったので、本当に全部自分でやるしかなかった。その後の育成選手時代も、人にやらされるよりは自分でやれという環境。そこで自分でやる力があったのは大きかったと思います。練習メニューもほとんど全部自分で考えてやっていましたから。
Shigeru:いわゆる日本野球のエリートコースではなかったんですね。
Yuji:全く違いましたね。でも、それが良かったんだと思います。育成選手時代は本当にいつ切られてもおかしくない立場だったので、コーチの言うことなんて聞いてる場合じゃないと思っていました。チャンスは一回限りで、育成からクビになってもう一度プロになれる選手なんていませんから。もしコーチに任せて自分を作ってダメだったら、絶対後悔するな、と。だから自分がやりたいようにやって、それでダメだったら仕方ないと思っていました。

プロ野球選手の新しい地元貢献の形を

Shigeru:今日行われたトークショーでは、子供たちが大喜びしている姿が印象的でした。子供たちが絡み始めてから、お二人のトークも軽快になっていったような気がします。野球教室以外に今後、子供たちと一瞬にやってみたいことなどは何かありますか?
Ayumu:子供たちに何をやって欲しいか、逆に聞いてみたいですね(笑)。それに応えるのは楽しそうだな、と。
Yuji:小学生にはまず何より、野球を楽しんで欲しいんですけど、中学高校レベルになったらもう、真剣に取り組んで欲しいですね。こっちもガチでやりたいから。
Shigeru:たとえば3日間くらい付きっ切りでのベースボールクリニックとか、どうです?
Ayumu:僕のスケジュールの都合に合わせてくれるのであれば、全然やりますよ(笑)。
Yuji:それに申し込んでくれる人は、その時点でもうガチでしょうからね。
Ayumu:実は来年、魚住市で野球の大会を開きたいと思っているんです。
Shigeru:おお、いいですね! 「石川歩カップ」みたいな。
Ayumu:はい。魚住と、もうひとつどこかで大会であって、その優勝チーム同志で決勝戦をやって年末に表彰式、みたいなことをやりたいな、と。
Shigeru:いいですね。石川カップの優勝チームと西野カップの優勝チームが対戦、と(笑)。
Yuji:僕もやりたいですよ。自分も子供の頃、進藤杯があったので。
Ayumu:上原(浩治)さんと(高橋)由伸さんが、それぞれ大阪と千葉で大会をやっていることを知って、いいなと思ったんですよね。
Shigeru:そうした「〇〇カップ」が全国に広がっていけば、プロ野球選手の新しい地元貢献の形になりますよね。アメリカだと、リトルリーグのユニフォームに地域の床屋のロゴとかが、スポンサーとして入ってるんです。一丁前にスポンサーがついてるので、選手たちは気分良くプレーして、その親御さんはみんなその床屋に通うという。すごく良い仕組みですよね。日本の野球界、スポーツ界にも今後、そうした地域に根付いた新しいモデルが増えてくるといいなと思っています。

石川歩(いしかわ・あゆむ)

1988年4月11日生まれ。富山県出身。富山県立滑川高等学校、中部大学で活躍。大学時代は1年春から公式戦に出場。4年次にはエースとしてチームを牽引し、東京ガスへ。社会人3年目でチームをベスト8に導き、東アジア競技大会日本代表にも選出。2013年のドラフト会議で読売ジャイアンツと千葉ロッテマリーンズの2球団から1位指名を受け、抽選の末、ロッテに入団。1年目で10勝を挙げ、新人王に輝いた。

西野勇士(にしの・ゆうじ)

1991年3月6日生まれ。富山県出身。富山県立新湊高等学校で活躍。2008年のドラフト会議で千葉ロッテマリーンズから指名を受け、育成選手となる。2012年11月に支配下選手登録されると、2013年にプロ初登板を果たす。その年には故障もあり9勝にとどまるが、翌年の2014年クローザーを任されるとリーグ3位の31セーブを記録するなど活躍、日本代表にも招集された。2015年には骨折もあったが自己最多34セーブを記録、安定感のある守護神としてチームのみならず日本代表としても頼られる存在となっている。